なぜあなたは症例報告するのか?

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なぜ症例報告を書くのか?

自分が臨床の現場で困ったことが、次に同じ場面に遭遇した医師にとって役立つかもしれないからです。極端な例では、自分が今まで報告されていない新しい疾患の存在に気づいた場合は、世界に報告して共有することで多大な知の貢献となるでしょう。

そこまでの例は少なくても、日常臨床においても診断に困った例、前医から診断困難で紹介された症例、重症で治療に難渋した症例、思わぬ合併症を来たしてしまった症例など、「困りごと」はたくさんあると思います。その中で解決の糸口が見つかった症例や、今後の教訓がある症例については、記述して報告する意義があると考えます。

私の症例報告の体験

私自身の症例報告の経験を記載しておきます。

① 治療効果判定に難渋したケース

難治性の成人スティル病で再燃したためトシリズマブを導入しましたが、その後もう一度再燃した方がいました。トシリズマブの導入前は臨床症状の悪化とバイオマーカーがパラレルに動いていたため再燃の判断がしやすかったのですが、トシリズマブの導入後にもう一度再燃したときは臨床症状が悪化しているにもかかわらず、修飾の影響でCRPなどのバイオマーカーの上昇が見られず、判断が難しくなりました。また免疫抑制中なので感染など他の病態が本当に除外できているのかの判断も難しかったというケースでした。

このときの「トシリズマブ導入後の病態再燃の判断」における教訓をまとめました。

② 鑑別診断に難渋したケース

水痘・帯状疱疹ウイルスによる髄膜炎は通常は髄液糖が正常ですが、まれにウイルス性髄膜炎でも髄液中の糖が低下することがあります。症例は結核の既往もあり、当初結核性髄膜炎も鑑別にあがったため、empiric therapyに悩んだ症例です。また、マルチスクリーニング検査が外注で時間がかかったという点も、resource limittingな施設における示唆を与えると考えて、まとめました。

また、脳梗塞と診断されて入院していた方の意識障害が改善せずコンサルトを受けて精査したところ、ヘルペス脳炎であったという症例を経験しました。発熱・急性経過の意識変容から脳炎は鑑別にあがったのですが、MRI画像がヘルペス脳炎としては非典型な場所に病変があり、当初から上位鑑別にあげることはできませんでした。

非典型な画像所見としてclinical pictureを報告しました。

症例報告を書く際に苦労したこと

①症例選び

上司の先生に、「この症例は報告に値するから書いてみて」とお題を与えられることはありますか?その場合は、幸運です。

初学者にとって最初のハードルは「この症例は報告できるか(reportableか)」という点がわからない、ということです。自分にとって困った症例でも、自分の勉強不足・経験不足からくるのか、普遍的な困りごとなのか判別が難しいのです。

しかし、上司から「この症例は報告に値する」といわれると、最初のハードルである症例選びをクリアしていることになります。

私の場合は持ち込みで症例を相談したため、不安が残りました。

②Take home message

症例報告には、通常1~2つの「Key message」があります。一貫して伝えたい軸を定めることで肉付けしていくときにブレなくなるのです。

このKey messageを定めていく作業がなかなか初学者にとっては難しく、過度に一般化しすぎてしまったり、逆に具体的すぎたりするものです。

指導医と相談してメッセージを決めていきました。

③Authorship

最初の症例報告は、他施設の指導医の先生にメンターになっていただきました。自施設の経験症例なので、途中から自施設の先生にもみていただく形になり、いわゆる「ダブルメンタリング(相談先が二重になること)」で双方の指導医の先生に気遣いいただいたのではないかと、恐縮しています。最初からAuthorshipを明確にしたチーム作りを意識できればよかったなと思います。

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症例報告する意義

症例報告を書くことは、「研修医・専攻医にとっての最初の一歩」というイメージがあるかもしれません。でも、私は専攻医を終えたスタッフの「生涯学習」という観点からも、症例報告を行う意義はあるのではないかと思います。年次が上がるとカンファで厳しいツッコミを受けることも少なくなるかわり、つい勉強しなくなってしまいがちです。症例報告という”他流試合”で勝負するためには、文献を調べたり勉強しなければなりません。このため、「症例報告を書き続ける」ことは臨床医のスキルアップにとって大切ではないかと感じます。

臨床医が注意深く所見を観察することを怠らないためには、観察したことを詳細に記述する必要があります。日々のカルテも詳細に書くべきですが、その集大成が症例報告なのです。

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