なぜ総合診療医の生涯学習が問題か?
臓器別専門医は日々ご自身の専門の疾患を診療し、知識や技術を研鑽していらっしゃると思います。一方、総合診療医は「広さ」を武器とする一方で特定の疾患を選択的にみるわけではありません。裏返すと集中的に深く診療するわけではないので、疾患の診療に関する知識や技術を維持・向上するのが大変です。広く深くアップデートし続けるのは相当な労力が必要です。たとえば、「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」「ジェネラリストのための内科診断リファレンス 」などは素晴らしい先生方の長年にわたる研鑽の結晶です。しかし、私を含めなかなか全員にできることではありません。また、地域の診療所などでは最新の機械や知識に触れる機会がどうしても少なくなってしまうでしょう。また、年次が上がるとだめ出しを受けたりフィードバックを受けたりする機会が減り、だめな診療をしていても気づきにくくなっていることを自覚しています。
ヒントはオスラー先生の言葉に
オスラー先生によれば、学究的開業医に必要なのは、「手帳」「書斎」そして5年目ごとに行う脳の「塵払い」の3つです。(「平静の心」より)
①手帳
日々の診療を漫然とこなすのではなく、「手帳」で気づきをメモすることで、振り返ることができる。現代ではスマートフォンやPCにメモしてもよいかもしれません。日々の外来や病棟でのカンファレンス、気づきの共有、とりわけ興味深い症例の学会発表・症例報告が「手帳」にあたるでしょう。手帳に書きとめる習慣を身につけることで、観察眼を磨くことができます。とりわけ、プライマリケアに従事する場合に、診断が分からないケースや専門的治療が必要なケースで高次の医療機関に紹介することは多いですが、丸投げでは診療能力が向上しませんよね。紹介状の返書にしっかり目を通し、良かった点と反省点を記憶しておくことや、診断が未確定のケースでも胆力を持ってフォローアップし、詳細を記述し続ける努力が必要だと思います。
②書斎
「書斎」には専門的な論文を読むことと、専門外の教養としての読書の2つが含まれています。専門的な論文や書籍に精通し、インプットを続ける習慣が大切であることは、明らかです。現代では生成AIの台頭が著しいだけに、ななめ読みではなく、時間をかけてじっくり書物や論文に向き合い、精読することの価値が相対的に上がっていくでしょう。また、教養としての読書としては、オスラー先生はベッドサイドライブラリーといって寝る前の30分を古典的な名著の読書にあてることを推奨していました。あまり実践できていないが、確かに医学書だけではなく、”心” “教養”を培い育てるためには名著をひもとくのがよいでしょう。
③脳の塵払い
「塵払い」とは5年ごとに病院や研究施設に戻って、貯まったメモを持参して勉強することです。脳にたまった塵を払い、灰白質に栄養を与えることのようです。現代でいえばリスキリングのようなものでしょうか。
妻や幼い子供を残してでも「塵払い」すべきだとオスラー先生は説いていました。
卒後6年目からSPHに入学してパブリックヘルスの勉強したことはは私にとってちょうど「塵払い」となりました。
環境的に難しい場合もあるかもしれませんが、現代はオンラインでも学ぶ環境が整っていますので、継続的に学びやすくなっているメリットはあると思います
Teaching is Learning.
研修医や専攻医教育に携わり、自ら学んだ知識と技術を伝えていくことも、学びにつながります。研修医の先生は診療科をローテーションするので、最新の知識に触れているため逆に教えてもらえるチャンスも多いですよね。若い意欲ある医師との交流は気力を培う意味でも貴重です。診療所でも、地域研修など受け入れることが解決策になりそうです。
個人的にやってよかった習慣
専門医の取得・維持のために必要な勉強は、迫られていやでもやると思います。(例えば内科学会のセルフ・トレーニング問題など)
自発的な勉強で個人的にやってよかったものをあげていきます。
① 4大誌の論文やレビューに目を通す
臨床医学の4大雑誌である New England Journal of Medicine, JAMA, BMJ, Lancetの論文や、レビューに目を通す習慣をつけるとよいです。自分だけでしんどい場合は、まとめてくださっている記事なども活用してキャッチアップしましょう。
② 短期間の集中プログラムに参加する
心臓の聴診、ポイントオブケア超音波、臨床研究、臨床推論など、様々なコースが提供されています。自分の関心にしたがって学びを深めるよい機会となりますので、ぜひ参加して刺激を得てみてはいかがでしょうか。
③ 名著を読み直す
医学生の間にハリソン内科学を通読することはできませんでしたが、医師となってから該当する疾患を経験したときに読み直すと味わい深く、読み進められます。時に病態生理の教科書まで立ち戻って調べるのもよいでしょう。名著に戻って医学を味わう経験は刺激になりますよね。
④ 症例報告を書く/臨床研究をする
日常の疑問を調べてもわからないことは、研究として深堀りするとさらに学問の深淵を垣間見ることができるでしょう。また、一症例を突き詰めて学会発表し、ほかの施設の重鎮の先生からフィードバックをいただいたり、症例報告でpeer reviewしていただけたりするのは、特に年次が上がると貴重な経験です。自分の診療を客観視できるようになるメリットもあります。
いかがでしょうか。あなたの生涯学習の工夫についても教えていただければ幸いです!

コメント